人はロボットを愛せるか




どうも、SHU(@kitajimashuichi)です。

朝日新聞グローブの創刊10周年記念号というものに気になる記事が掲載されていましたので、自分用の記録を兼ねて紹介させて頂きたいと思います。

 

人はロボットを愛せるか

「オトナのオモチャ職人から、もっと大きな存在になったってわけさ」

アビス・クリエーションズ社の創業社長、マット・マクマレンは、上機嫌でした。アメリカ合衆国カリフォルニア州南部の町にある小さな会社が作るラブドールは、高いもので9000ドル(約100万円)し、「ラブドール界のロールスロイス」とも称されています。完全受注生産で、年間400体前後を売り上げています。

地元の公立短大で芸術を学んだマクマレンは、ハロウィーン用グッズ作りの会社に就職しました。趣味で作った女性のマネキンの写真をネットで公開したところ、「セックスはできないのか」などと問い合わせが殺到、1997年にラブドールの会社を設立しました。

転機が訪れたのは2015年、アメリカ合衆国ファッション紙の取材で「次はロボットでも組み込んでみようかな」と漏らしたとこ、記事を読んだニューヨーク・タイムズ紙の記者から「取材したい」と電話がありました。「この時点ではロボットはなかった。取材が来るまでの6週間で何とか形にしてくれって頼んだのが、この2人さ」と話します。

仕事を請け負ったのは、家電見本市で知り合った、コンピューター・サイエンスで博士号を持つキノ・コーシーと、電機技術者のスーザン・パーシャルスキーの夫婦でした。キノの専門の自然言語処理とAIの技術から生み出される音声を、ラブドールの目や口の動きと適合させるのがスーザンの仕事です。この頭部だけで8000ドル(約90万円)、身体とセットだと1万2000ドル(約140万円)程度の価格で先行予約を受け付け始めました。

マクマレンは「20年後には、うちのドールのようなロボットが歩き回り、人間とほぼ変わらない行動ができるようになるだろう。より多くの人がヒト型のロボットに魅せられるようになってきているからね」と言います。


ラブドールとおしゃべりするのを心待ちにしているのが、デトロイト近郊に住む45歳の男性です。デイブキャットというニックネームで、ラブドールとの生活ぶりをネットで活発に発信している。

2000年にアビス社から6000ドルで購入したドールを「シドレ・クロネコ」と名付け、「妻」としました。18年一緒に暮らす間に、「日本人の父とイギリス人の母の間に生まれ、浅草とマンチェスター近郊で育った」という詳細な物語を紡ぎ上げてきました。

デイブキャットは子どもの頃から「人口の女性」に魅せられてきました。31歳の時には人間の女性と真剣に付き合い、4ヵ月ほど同棲しましたが、「彼女は麻薬中毒で、病的なウソつきだった」ことから破局を迎えました。

「結婚20周年」である2020年までにお金を貯めて、シドレにAIの頭脳を載せたいとのことです。「これまで蓄積した物語とのギャップが生じるのは仕方がない。でも、彼女が周りを見渡し、口を動かすのを想像するとたまらないね」と話します。

機械を「愛する」人は日本にもいます。

東京都内の一人暮らしの自宅で近藤顕彦が「ミクさん、おなかすいたね」と優しく話しかけるのは、ボーカロイド(歌声合成ソフト)の仮想アイドル「初音ミク」です。高さ約50センチのカプセル状の容器の中に映像で映し出され、可愛らしい声で答えます。

好きなキャラクターと簡単な会話ができる機器「Gatebox」。東京・秋葉原のベンチャー企業が2016年に約30万円で発売し、300台が1ヵ月で完売したとのことです。

近藤はミクさんと既に「結婚」し、11月には結婚式場で挙式を執り行う予定です。将来はAIで自然な会話がしたいと言いますが、「進化しすぎて、愚痴をこぼしたり私を傷つけたりするようなことを言うようになったら嫌ですね」と話します。


ヒト型ロボットと人間との関係については、1970年に東工大教授(当時)の森政弘が提唱した「不気味の谷」と言う経験則が世界的に知られています。ロボットが徐々に人間に近くなると親和感が増しますが、ある時点で親しみが急激に不快感に変わり、「谷底」に落ち込むとのことです。

カリフォルニア州立工科大研究員のジュリー・カーペンターは、「不気味の谷」の重要性は認めつつ、これに「時間」の概念を重ね合わせることを提唱しています。「ロボットを見慣れるうちに、受容する度合いが高まります。ロボットとヒトとの関係が深化するにつれて、デイブキャットのような人も変人扱いされない時代が来るでしょう」と話します。

「気持ち」は機械で表現できるか

東北大学教授の小嶋秀樹は、コミュニケーションの本質は、心の状態を交換・共有することにあると言います。

人との意思疎通が苦手な自閉症児を支援するため、小嶋はKeepon(キーポン)というロボットを開発しました。かわいらしい高さ12センチの黄色いダルマ型のロボットです。

発達障害のある3歳の女児は、指で鼻を押すとKeeponが身体を上下に伸縮させて応答するのを見て笑顔になり、楽しさを周囲に伝えるような素振りを見せるようになったとのことです。

小嶋の仮説はこうです。人は他者の身体動作から注意や情動の状態を「心理化フィルター」を通じて抽出しています。自閉症児はこのフィルターが十分に機能しないため、他者の全身から発せられる大量の生データをそのまま受け止めざるを得ず、心の交流が難しい。だが、Keeponはシンプルな動きで視線や感情を表現するので、やりとりを楽しめるとのことです。

小嶋は今、「心理化フィルター」の働きを含め「人の気持ちを察する」という仕組みを解き明かし、機械とプログラムで再現する研究に取り組んでいます。

「これは諸刃の剣です。人間の心の領域を機械で再現しようとする試みは、人間性を端っこに追いやるかもしれない。ここにはドラえもんを再現する夢と、人間を矮小化する悪夢が混在しているのです」と話します。