爬虫類・両生類の環境エンリッチメントについて〜日本の現状と海外や動物園の飼育事情〜

どうも、爬虫類ブロガー“SHU”です。

近年、飼育動物に関する「環境エンリッチメント」という考え方が広がっていますがそれは爬虫類・両生類においても例外ではありません。この記事では、日本の現状と海外や動物園の飼育事情を参考に爬虫類・両生類の環境エンリッチメントについて書いていきたいと思います。是非参考にしてみて下さい!

はじめに:環境エンリッチメントとは

「環境エンリッチメント」とは、動物の福祉と健康を改善するために飼育環境に変化を与えることによって飼育動物に刺激や選択の余地を与え動物本来の望ましい正常な行動の多様性を引き出すこと、刺激不足の環境において動物本来の適切な行動と心的活動を発現させる刺激を与えることなどと定義され、飼育環境に対して行われる工夫のことを全般を指します。

飼育動物の活動性と行動の多様性を高め野生と同様の行動を引き出し、望ましくない異常な行動を減らし環境の肯定的な利用を増やすことを目指して行われ、飼育動物の福祉を向上させる最も強力な手段のひとつとされています。

環境エンリッチメントの分類

環境エンリッチメントの試みは、その方法によって採食・空間・感覚・社会的・認知などにに分類されます。

●採食エンリッチメント

採食エンリッチメントは、餌の種類や与え方を変えるなど食物に関連するエンリッチメントです。多くの時間を採食に費やす野生動物と比べて餌を飼育者から与えられる飼育動物は、採食行動の時間が短く行動の種類も少なくなります。そこで、それを補うことを目的とした採食エンリッチメントが行われています。おもしろいことに多くの動物はたとえ容易に得られる餌があっても、労力を要する方法を好んで採食します。この現象はコントラフリーローディングと呼ばれています。

●空間エンリッチメント

空間エンリッチメントは、飼育環境の構造や設置物・床材などによるエンリッチメントです。空間エンリッチメントは、さらに触覚エンリッチメントと構造エンリッチメントに分類されることもあります。多くの動物は隠れ家を与えると異常行動やストレスの指標が低減します。種によっては、他の群れが見えなくなる目隠し効果もあります。

●感覚エンリッチメント

動物の視覚・聴覚・嗅覚その他感覚に刺激を与えるエンリッチメントです。音の出る玩具・反射光・血痕などが用いられます。ただし種によっては、同種や捕食者の存在を示す刺激(声やにおいなど)がかえってストレスや不安を増やしてしまうこともあります。

●社会的エンリッチメント

他の動物との関わりに着目したエンリッチメントです。ヒトや同種個体・混合飼育の場合には、他種の動物との関係も社会的エンリッチメントになりえます。同種個体の存在は、飼育動物のエンリッチメントにおいて最も重要なもののひとつです。野生の群れ構成に近づけることが望ましいと言われており、単独飼育の場合よりもペアで飼育した方が行動が多様化すると言われています。社会的飼育の重要性はとくに実験動物において強く指摘されており、極小ケージのような環境ですらその効果は大きいと考えられています。ただし現実には実行が難しいことも多く、同種個体と一緒に飼育すると争いやストレス・ケガ・病気などの原因となる可能性もあり飼育管理体制の配慮も必要とされます。そのため鏡やビデオを用いたり、物理的な接触をさせずに他個体の姿を見せたりといった代替手法もあります。動物の種や時期によっては、単独飼育がむしろ好ましいこともあります。

●認知エンリッチメント

複雑な問題解決を必要とし、動物の知性を刺激するものを与えるエンリッチメントです。複雑な操作を行わないと餌を得られない装置を与えるなどがその一例です。多くの場合、エンリッチメント装置を使わなくても餌を得られるようにしますが、採食エンリッチメントで前述したコントラフリーローディングの効果により、それでも動物は認知的に難しい操作を行います。コントラフリーローディングの機会を与えることは動物の心理学的幸福を改善すると考えられています。

環境エンリッチメントの効果

エンリッチメントには多くの成功例がありますが、一方でエンリッチメントを試みたものの効果を得られなかった場合もあります。エンリッチメントを行う際には、目標を設定し結果の評価を行うことが望ましいとされています。エンリッチメントは行動の変化を目指して行われることが多いので、その成果は行動観察によって評価されます。1つの基準は、野生における行動の時間配分に近づけることです。

動物にとって新奇なものを使って刺激を与えることは多いですが、その場合には慣れによって効果が失われるおそれもあります。同じものを繰り返し与える場合には一定の間隔を置いたり、場所やにおいを変えたりすることで慣れを防ぐことができます。またエンリッチメント装置の独占をめぐって個体間で争いが起こると逆効果になってしまうこともありますので、社会構成に配慮して全個体に充分にいきわたるように配慮する必要があります。

エンリッチメントには間接的な利点もあります。実験動物では、エンリッチメントが神経細胞の新生や可逆的変化を促進したり、学習能力を高めたりすることが報告されています。鉛汚染による学習能力の障害を改善する効果も認められています。恐怖反応の改善や、脳障害や老化の緩和も示されています。エンリッチメントによる刺激や、ストレスの緩和、健康状態の改善の間接的な効果として、繁殖も促進されます。

爬虫類・両生類の環境エンリッチメントについて

爬虫類・両生類の環境エンリッチメントといえば、飼育環境などの「空間エンリッチメント」がとくに問題視されています。

ケージレイアウトはもちろんライト・シェルター・アクセサリー(流木・岩・観葉植物)・床材など爬虫類・両生類の飼育に必要なアイテムの活用などが空間エンリッチメントに該当しますが、日本の爬虫類・両生類飼育では日常管理重視の殺風景で簡易的な飼育方法が横行しています。

問題視されている主な例として…

  • ヒョウモントカゲモドキのケージに流木や岩を入れずに、シェルターとペットシーツだけで飼育することが楽しいのか?
  • 一般的に地表性と言われているフトアゴヒゲトカゲだって、流木を入れてやると意外と立体活動を行いますし、Wikipediaでは半樹上棲と書いてあり日中のほとんどを流木の上で過ごしていることも多い。
  • ボールパイソンの保温も、パネルヒーターのみでは適温に届かずパネルヒーターの上に常駐しすぎて低温火傷の可能性も高くなり、衣装ケースでの飼育も適していない。
  • 日本で飼育されているカーペットパイソン(モレリア)が、「ヘビのケージサイズはとぐろの3倍の底面積で充分」「ヘビにバスキングは不要」などといった常識のせいで肥満になり短命で一生を終えやすい。
  • アカミミガメだって実際かなり運動量が多く、プラケースや小型水槽に閉じ込めてしまうのは可哀想。
  • ツノガエルのスポンジやソイルだけの簡易的な飼育では、ビバリウムで飼育している個体と比較して足腰の筋肉も色の具合もまるで違いますし、スポンジの低い自浄効果では排泄物で自家中毒を起こす可能性も高くなる。
  • ファイアーサラマンダーも本来広い行動範囲を持っており、プラケース飼育では可哀想。

などなど

簡易的な飼育方法が横行している原因は爬虫類ショップ!?

簡易的な飼育方法が横行している原因は様々かと思いますが、個人的に一番の背景は日本の爬虫類ショップにあるのではないかと思っています。

今でこそ「爬虫類ショップは上から目線」というイメージも変わってきましたが、少なからずそういうショップも残っており(爬虫類飼育初心者に対してはとくに)「あれはいらない」「これだけで飼える」という手軽さが今の爬虫類ショップの売り文句でもあります。

飼育環境の要不要を誰が決めたんですか!?爬虫類ショップ?専門誌?ネットの情報?

必ずしもみんなが飼っている方法が正解だとは限りません。合理性に流されて魅力の本質を見失いがちです。生体が持っている魅力や本来の活動を引き出せば健康にも飼育の楽しさにも繋がるはずです。それを勝手に切り捨てて週に10分の手間を惜しんだ「これで充分」の行きつく先は死なないだけの管理です。それを飼育とは言えませんし、効率的な管理方法が必ずしも最適解とは限りません。

こんなことを書くと全国の爬虫類ショップから叩かれそうですが、爬虫類ショップだって商売です。経営者も本当に爬虫類が好きで爬虫類ショップを開業したのかもしれませんが、開業した時点で本来好きな爬虫類も商品になります。利益率・回転率・採算など様々な裏事情により、爬虫類に申し訳ないような事態も発生するわけです。取り扱う生体も多いため日常管理重視の殺風景で簡易的な飼育方法が理想的ですし、必要経費を抑えるために本来必要であるはずの飼育アイテムを削り簡易的な展示による販売もありうるって話です。次第に「あれはいらない」「これだけで飼える」という変な価値観にとらわれ、それがお客さんに伝染し爬虫類飼育の常識になるのは時間の問題というのは言うまでもありません。

海外の飼育事情

日本はとくに日常管理重視の殺風景で簡易的ないかにも合理主義的な飼い方が一般的になりつつありますが、海外ではどうでしょうか?

テラリウムの発祥地・先進国のイギリス・ドイツ・オランダなどの爬虫類ショップでは、ビバリウム(生体の生息環境を再現した飼育施設の総称)が一般的で大切にされており、日本と比べて販売レギュレーションも厳しいです。そのおかげもあってか、そういった国の個人飼育者の間でもビバリウムで飼育する方法が一般的です。ビバリウムは掃除などの手間はもちろん世話の時間もかかりますし、飼育コストも上がります。しかし、生きものを飼うということは世話が楽とかコストがかからないなどという理由で判断していいものなのでしょうか?爬虫類・両生類の飼育方法に必ずしも正解はありませんが、より自然に近い環境・方法で育ててあげた方が良いことに間違いはありません。生体の魅力を最大限上手に活かせるレイアウト、この種類はこうやって飼うことが一番魅力的という方法があると思います。

このことからも爬虫類ショップはただ生体を販売するだけではなく、生体に最も適した飼育方法を提示する「飼育モデル」としての役割が重要であることも理解できるかと思います。

体感型動物園 iZoo

日本でも人気がある動物園や水族館は、積極的に環境エンリッチメントに取り組んでいます。動物園や水族館などの施設が、ただ動物を展示しているだけではすぐに来客に飽きられてしまいます。環境エンリッチメントに取り組むことによって動物の正常な行動の多様性を引き出し、動物が退屈せずに活発に過ごす姿は見ていて飽きず来客にも評価されます。

爬虫類・両生類の施設でいうと、静岡県にある「体感型動物園 iZoo(イズー)」が有名なのではないでしょうか?

イズーは爬虫類や両生類を展示するだけではなく、希少種の繁殖にも力を入れています。地球上で最も珍しいトカゲとされている、ミミナシオオトカゲの世界初の生体展示・繁殖など生態の解明もしています。また、展示の仕方も綺麗で勉強になるので参考にしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

日本の現状と海外や動物園の飼育事情を参考に爬虫類・両生類の環境エンリッチメントについて書いてきましたが、イズーのような大型な設備を個人で揃えるのは限界がありますし、海外のようなビバリウムですらも大量に生体を管理している人からすれば、なかなか日本の住宅事情では容易にそういった環境を準備するのは難しいと思います。

日本の住宅事情を考えると、ビバリウムを大事にしつつ手間と場所をとりすぎない飼育方法が最も適しているといえるでしょう。私が一番問題視していることは、今の日本の爬虫類・両生類飼育は日常管理重視の無駄に殺風景で簡易的な飼育方法が過度に横行していて、それが常識になりつつあるということです。

もちろん繁殖や収集などもすべて含めて爬虫類・両生類飼育の魅力で飼い方がシンプルでも楽しんで大切に育てている人もいるので一概には言えませんが、殺風景なケージで飼育するよりも何かしら環境に変化をつけられるようなレイアウトを施した方が爬虫類や両生類も楽しいのではないでしょうか?迫力のある魅力(美しさ・野性味)を兼ね備えた爬虫類・両生類を、ちょっとケチったせいで満喫できないなんてもったいないと思いませんか?

爬虫類や両生類は、小動物などと比較して過酷な環境に対して進化してきたので確かに丈夫です。そのため「タフで死なない」を免罪符に飼育の最低限の線引きも低くなっています。しかし、爬虫類・両生類も万能ではありません。寒さや暑さに弱い種もいれば少ない餌に弱い種もいますが、それをヒトに伝える術を持っていません。飼育動物全般に言えることですが、「不満を言わないから最低限でいい」のか「不満を言えないからよりベターを目指す」のか、飼育者が声なき声に耳を澄ましてあげないと動物は「死」という形でしか伝えることがでません。

ただでさえ動物の「飼い方」に正解なんてありません。正解のないものに正解を出そうとすること自体がおこがましい話なんですが、飼育方法は人に教えを乞うばかりではなく私たち飼育者が自ら調べて・考えて・観察して・自分で導き出すものです。そうしなければ育たない力もきっとあるはずです。浅い飼育経験でも、知れば知るほど知らないことが増えてきます。確かに教えてくれる人も考える機会も多い方がいいですが、最終的に自分に一番適した飼育方法を見つけるのは飼育者自身だと思います。

当ブログ(SHULOG)でも、様々な爬虫類・両生類の飼育方法を紹介していますが「飼い方」を指定しているわけではありません。あくまで参考程度にと考えていただければ幸いです。