生物学に基づく世界共通の名称「学名」について

どうも、爬虫類ブロガーのSHU(@kitajimashuichi)です。

爬虫類業界では、オウカンミカドヤモリ(クレステッドゲッコー)などのニューカレドニアに生息する固有属を通称「ラコダク」と呼んだり、カーペットパイソンのことを通称「モレリア」と呼んだり、爬虫類初心者が「ん!?」となるような名称も多々出てくるかと思います。

今回はそんな「ラコダク」や「モレリア」などといった、生物学に基づく世界共通の名称である「学名」について書いていきたいと思います。

学名について

学名とは生物学的な手続きに基づき、世界共通で生物の種および分類に付けられる名称のことです。命名には一定のルールがあり、ラテン語で表記されます。

例えば、日本固有種のヘビであるアオダイショウ(Elaphe climacophora)は、アメリカなどの英語圏だと「Japanese Rat Snake(ジャパニーズラットスネーク)」と呼ばれますし、ドイツ語圏だと「InselKletternatter(インゼルケレッターナーター)」と呼ばれます。

このように同じアオダイショウでも呼び方がバラバラだと学会や動物業が混乱してしまうので、「言語が違っても通じ合う共通の呼び方を1つ作りましょう」ということで作られた名称が学名です。

  • 日本語(和名):アオダイショウ
  • 英語(英名):Japanese Rat Snake
  • ドイツ語:InselKletternatter
  • 学名:Elaphe climacophora

生物の分類

すべての生物は「ドメイン、界、門、綱、目、科、属、種」に分類され、それぞれ学名が与えられています。種の学名を表すには属名と種小名を併記し、こういった表記を二名法(二名命法)といいます。

アオダイショウの学名はElaphe climacophoraですが、Elapheが属名で、climacophoraが種小名となります。ペットスネークの代表種であるコーンスネークの場合は、学名がElaphe guttataなので、Elapheが属名で、guttataが種小名となり、アオダイショウとコーンスネークは同属ですが、種は異なるということが学名から分かります。

また、学名のあとに続けて命名者名と命名された年号が表記されていることもあります。

コーンスネークの場合は「Elaphe guttata Linnaeus,1766」と表記されていますが、これはコーンスネークがリンネという人によって1766年に命名されたということが分かります。このように学名からもさまざまな情報を読み取ることができます。

ちなみに、コーンスネークの学名を命名したカール・フォン・リンネという学者が最初に生物分類を体系化し、生物の学名を属名と種小名の2語をラテン語で表す二名法(二名命法)を体系づけたとされ「分類学の父」とも称されており、これが現在でも踏襲されています。

亜種

亜種とは生物の分類区分において、種よりも下位の区分となります。例えば「明らかに同属同種っぽいんだけど、なんかちょっと違うよな?」というような種が存在する場合、種をさらに細分化し亜種とされることがあります。

種と亜種を分ける明確な基準はありませんが地域的に隔絶した離島などで亜種が出現しやすいとされており、亜種は同一種に属する地理的品種をさし相互の間の形態的差異がはっきりしたもののことをいいます。分布の広い種や移動能力の小さい種では、しばしば地域的に大きさ、形、色彩などに一定の違いがみられ、そういった場合に亜種として区別されます。また、亜種同士では交配が可能な場合もあります。

亜種などの学名には、二名法に加えて第三の語を付記します。ヒョウモントカゲモドキなんかは結構亜種が存在し、たまに「“ファスキオラータス”入荷!」とかで盛り上がっていることがありますが、ファスキオラータスとはヒョウモントカゲモドキのレアな亜種のことで、学名はEublepharis macularius fasciolatusとなり、Eublepharisが属名で、maculariusが種小名で、fasciolatusが亜種名となります。このような表記を三名法(三名命法)といいます。

ヒョウモントカゲモドキの亜種一覧
  • Eublepharis macularius macularius(マキュラリウス):基亜種
  • Eublepharis macularius montanus(モンタヌス)
  • Eublepharis macularius fasciolatus(ファスキオラータス)
  • Eublepharis macularius afghanicus(アフガニクス)
  • Eublepharis macularius fuscus(フスカス)
  • Eublepharis macularius smithi(スミシィ)

マキュラリウスは通称パンジャブ(パンジャブ州で見本個体が捕獲されたため)と呼ばれ、ヒョウモントカゲモドキの基亜種とされています。

ヒョウモントカゲモドキのように亜種が複数存在する場合、マキュラリウスのように種小名と亜種名がmaculariusと同じ学名の亜種が必ず存在しますが、これを基亜種といいます。ほかにも名義タイプ亜種、原亜種、原名亜種などと呼ばれ、種記載のタイプ標本(記載の時に基準とされた個体を保存した標本)に該当する亜種のことであり、分化の元となった原種という意味ではありません。

亜種は、地域個体群や品種とは異なります。ヒョウモントカゲモドキで言えば“ハイイエロー”などのような品種(モルフ)は、亜種よりさらに下位の区分として用いられることがあります。

属(近縁種)

学名が理解できると、分類もある程度分かるようになってきます。

ヒョウモントカゲモドキの近縁種一覧
  • オバケトカゲモドキ(Eublepharis macularius
  • ヒガシインドトカゲモドキ(Eublepharis hardwickii
  • トルクメニスタントカゲモドキ(Eublepharis turcmenicus
  • ダイオウトカゲモドキ(Eublepharis fuscus
  • サトプラトカゲモドキ(Eublepharis satpuransis

このようにオバケトカゲモドキなどは、学名から同じユーブレファリス属に属していることから同属亜種であり近縁種の関係であるということが分かります。

逆に、ニシアフリカトカゲモドキ(Hemitheconyx caudicinctus)はヒョウモントカゲモドキと姿形は似ていますが、学名からヘミセコニクス属でありまったくの別属の関係だということが分かります。

属とは類縁関係が近い種をまとめた分類になります。種の定義は複数あり、見た目で分けた形態的種、相互に交配できない生物同士を分けた生物学的種などがあります。基本的には形態的種で分けられており、必ずしも属を跨いだ交配ができないとは言い切れません。しかし、基本的には別属に分類されるほど形態が異なるのであれば、まず交配できないと考えていいです。交配が成功したとしても、生存率や受胎能力が著しく低下する場合があります。

学名の意味

ヒョウモントカゲモドキのアフガニクス(Eublepharis macularius afghanicus)は、これまで説明したことを踏まえると「ユーブレファリス属のマキュラリウス種のアフガニクス亜種ですよ」ということになりますが、学名となっているラテン語にもちゃんと意味があります。

アフガニクスの場合だと、Eublepharis(真のまぶたを持つ)macularius(斑点のある)afghanicus(アフガン産の亜種)という意味があります。

afghanicus(アフガニクス)のように「~クス」や「~エンシス」は土地名をあらわしていることが多く、「~ィ」は発見者名をあらわしていることが多かったりと、ラテン語にもパターンがあり慣れると結構読めるようになってきます。

「学名」は慣れないうちは少しとっつきにくく感じますが一度慣れてしまえばスッと入ってきますし、名前の由来を調べるのも楽しいですし勉強にもなります。

まとめ

ペットルートによくのる種などは学名で呼ばれる頻度も多いので、爬虫類専門店のスタッフや爬虫類マニアはその名残から学名を使っていたりもします。

オウカンミカドヤモリ(Correlophus ciliatus)は現在は生物分類学的にコレロフス属に分類されますが以前はラコダクティルス属に分類されており、その名残から今でもマニア分類として残っておりラコダクティルス属代表種として通称「ラコダク」の愛称でも親しまれています。

カーペットパイソン(Morelia spilota)は亜種が多くそれらをまとめて通称「モレリア」の愛称で親しまれていますが、グリーンパイソン(Morelia viridis)やベーレンパイソン(Morelia boeleni)などのオマキニシキヘビ属のヘビは一応すべて「モレリア」となります。

今でこそ和名や英名で呼ばれる種がほとんどですが、学名から得られる情報も多いので気になった方は調べてみると面白いと思います!

では、みなさんもよい爬虫類ライフを!